青森地方裁判所八戸支部 昭和57年(ワ)152号 判決 1985年4月12日
原告
廣津國久
原告
廣津淑子
右両名訴訟代理人
高橋牧夫
被告
木戸光男こと呉光男
被告
共栄火災海上保険相互会社
右代表者
高木英行
右訴訟代理人
石田真夫
江口保夫
鈴木諭
泉沢博
被告
青森スバル自動車株式会社
右代表者
立岩一郎
右訴訟代理人
金沢茂
金沢早苗
主文
一 被告呉光男は原告廣津淑子に対し金一六七万八二〇二円及び内金一四七万八二〇二円に対する昭和五六年七月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告廣津淑子の被告呉光男に対するその余の請求及び原告らの被告共栄火災海上保険相互会社及び被告青森スバル自動車株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告廣津淑子と被告呉光男との間においては同原告に生じた費用を三分しその一を同被告、その余は、各自の負担とし、原告らとその余の被告らとの間においては全部原告らの負担とする。
四 この判決は原告廣津淑子の勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の申立
一 原告ら
1 被告青森スバル自動車株式会社(以下、被告青森スバルという)は原告廣津國久(以下、原告國久という)に対し金三六八万円、原告廣津淑子(以下、原告淑子という)に対し金三一八万円及び原告國久につき内金三四八万円、原告淑子につき内金二九八万円のそれぞれに対する昭和五六年七月九日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告ら三名は各自原告淑子に対し金六一四万円及び内金五八〇万円に対する昭和五七年六月一八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 被告ら三名
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告國久と原告淑子は夫婦であり、訴外亡廣津歩(以下、歩という)はその長女である。
2 本件事故の発生
左記交通事故により歩は即死し、原告淑子は後記傷害を受けた。
発生時 昭和五六年七月八日午後八時五五分ころ
発生場所 八戸市大字売市字杉山四五番地先国道一〇四号線上
加害車 自家用普通乗用自動車(横浜五七ゆ二八一一号)
運転者 被告呉光男(以下、被告呉という)
態様 横断歩道上を歩行中加害車にはねとばされる。
3 責任原因
(一) 被告呉は前方不注視の状態で本件加害車を運転した過失により本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。
(二) 被告共栄火災海上保険相互会社(以下、被告共栄火災という)は、昭和五五年一二月二七日、被告呉との間に同被告を被保険者とする自家用自動車保険契約を締結し、被保険者が対人事故によつて損害賠償責任を負担したときは、損害賠償請求権者からの直接の保険金支払請求に応ずる旨約するとともに、被保険者が保険証券記載の自動車以外の自家用自動車等を運転し対人事故によつて損害賠償責任を負担したときも、保険金の支払をなす旨の他車運転危険担保特約をなしていたから、本件加害車は右保険証券記載の自動車ではないが、右特約によつて本件事故により原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。
(三) 被告青森スバルは本件加害車を訴外渡辺節子より下取りしてその所有権を取得し、これを自己のために運行の用に供しているものであるから、自賠法三条に基づき、本件事故により原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。
4 損害
(一) 歩の死亡によるもの
(1) 逸失利益 金一五八〇万円
同女は昭和四八年三月七日生の当時八才の健康な女児で、本件事故により死亡しなければ一八歳から六七歳まで就労が可能であつたので、その現価を求めると、昭和五六年度賃金センサス第一巻第一表女子労働者産業計・企業規模計・学歴計一八ないし一九歳の給与額は年額金一三七万九八〇〇円であるから、生活費としてその四〇パーセントを控除すると、金一五八〇万円(一〇円(ママ)未満切捨て)となる。
104,700×12月+123,400=1,379,800
原告らは各々右損害賠償請求権の二分の一である金七九〇万円を相続した。
(2) 慰藉料 原告ら各金五〇〇万円
(3) 葬祭費 原告國久が負担、金五〇万円
(4) これらを合計すると、原告國久につき金一三四〇万円、原告淑子につき金一二九〇万円となるが、既に原告らに支払われた自賠責保険金一九六四万円及び被告呉より支払われた金二〇万円を折半して、右損害に充当すると、残額は原告國久につき金三四八万円、原告淑子につき金二九八万円となる。
(二) 原告淑子の傷害及び後遺障害によるもの
(1) 傷害
同原告(昭和二〇年七月二二日生)は、右事故により骨盤骨折、腰椎右横突起骨折、頭蓋骨亀裂骨折等の傷害を受け、八戸市立八戸市民病院に事故当日の昭和五六年七月八日から同年一〇月二四日まで入院(一〇九日間)、同年一〇月二五日から昭和五七年六月一七日まで通院(実日数八日)加療を受けた。
(2) 後遺障害
腰部痛及び臀部一帯にかけ疼痛があり、このため充分力が入らず耐久力にかけるうえ、頸項部疼痛及びめまいがあり、思考力が減退し、天候によりその症状が強まる。又腰部横突起骨折、骨盤骨折による変形があり、右頬部に褐色状の色素沈着がある。右頬部の色素沈着は自賠法施行令の後遺障害別等級表の第一二級一四号(女子の外貌に醜状を残すもの)に該当する。
(3) 損害額
(イ) 治療費 金四四万六一六〇円
(ロ) 入院雑費 金七万六三〇〇円
一日金七〇〇円の割合で一〇九日分
(ハ) 付添費 金七万二〇〇〇円
原告淑子の義母杉山ユキが看護のため事故当日から昭和五六年七月三一日まで二四日間付添つたので、一日金三〇〇〇円の割合による。
(ニ) 通院交通費 金三二〇〇円
西売市―十三日町 バス賃片道一二〇円
三日町―市民病院前 同 八〇円の八日分
(ホ) 休業損害 金四二四万五七七三円
原告淑子は、ビューティ・ひろつの名称で根城店・売市店の美容所二店を経営していたが、本件事故により根城店を一二日間休業し、売市店は廃業せざるを得なかつた。
昭和五六年一月から六月までの根城店の純益は、別紙根城店売上等一覧表記載のとおり金三〇七万一一〇〇円(月平均金五一万一八五〇円)、売市店は純益は、別紙売市店売上等一覧表記載のとおり金二八七万五八二七円(月平均四七万九三〇五円)であつた。
したがつて、同原告の退院した日である昭和五六年一〇月二四日までの一〇八日間の休業損害は根城店金二〇万三六〇九円
3,071,100÷181×12=203,609
売市店金一七一万五九六三円
2,875,827÷181×108=1,715,963
合計金一九一万九五七二円となる。
そして同原告は、昭和五六年一二月二〇日ころから根城店で、経営者兼美容師として稼働しているが、退院の翌日たる昭和五六年一〇月二五日から症状固定の昭和五七年六月一七日までの二三六日間、従前の収入の三〇パーセントを失つたのでこれを計算すると金二三二万六二〇一円となる。
(3,071,100+2,815,827)÷181×236×0.3=2,326,201
(ヘ) 逸失利益 金一一〇万六七二四円
原告淑子は前記のとおり月収金九九万一一五五円を得ていたものであるが、前記後遺障害により昭和五七年六月一八日から二年間五パーセントの得べかりし利益を失つたものというべく、これをホフマン式計算法によりその現価を求めると、次のとおり金一一〇万六七二四円となる。
(ト) 慰藉料 金三〇〇万円
内訳 入・通院分 金一〇〇万円
後遺障害分 金二〇〇万円
(チ) 以上合計金八九五万〇一五七円となるところ、同原告は、自賠責保険金三二九万円(傷害保険金一二〇万円、後遺障害保険金二〇九万円)、被告呉より金八三万円を各受領したので、これらを控除すると金四八三万円(一万円未満切捨て)となる。
(三) 弁護士費用 金七四万円
本件事案によると、弁護士費用として、被告青森スバルは原告らに対し歩の死亡による損害に関し各金二〇万円宛、被告らは連帯して原告淑子に対し同原告の傷害及び後遺障害による損害に関し金三四万円、合計金七四万円を支払うのが相当である。
5 よつて、原告らは被告青森スバルに対し、歩の死亡による損害賠償として、原告國久については金三六八万円、原告淑子については金三一八万円及びいずれも前記弁護士費用を除く原告國久については内金三四八万円、原告淑子については内金二九八万円に対する本件不法行為の日の翌日である昭和五六年七月九日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、又原告淑子は被告ら三名に対し、自己の傷害及び後遺障害による損害賠償として、連帯して金五一七万円及び前記弁護士費用を除く内金四八三万円に対する本件不法行為のなされた後である昭和五七年六月一八日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
(被告呉)
1 請求原因1、2、3(一)の事実は認める。
2 同4(二)の事実につき、(1)の事実中、原告が本件事故によつて骨盤骨折、腰椎右横突起骨折、頭蓋骨亀裂骨折等の傷害を受けたことは認めるが、その余の事実は知らない。(2)の事実は認める。(3)の事実中、(イ)ないし(ニ)の事実及び(チ)の損害の填補の事実は認めるが、その余の事実は知らない。
3 同(三)の事実及び主張は争う。
(被告共栄火災)
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同三(2)の事実は認めるが、被告共栄火災に原告主張の損害賠償義務のあることは争う。
3 同4(二)の各事実は知らない。同(三)の事実及び主張は争う。
(被告青森スバル)
1 請求原因1、2の事実は知らない。
2 同3(三)の事実のうち、被告青森スバルが原告主張の経過で本件加害車の所有権を取得したことは認めるが、その余の事実は否認する。
本件加害車は右のとおり被告青森スバルにおいて所有していたものであるが、昭和五五年四月訴外工藤秋男(以下、工藤という)によつて詐取され以後所在不明になつていたところ、翌五六年五月にローンズハナブサこと大村英夫(本名季(ママ)英夫、以下大村という)が占有使用していることが分り返還を求めたが、同人は右工藤から二〇万円の貸金の担保として預つているものであると称して右貸金の立替払を要求してきたためその取戻しを断念し、そのまま右加害車を放置するわけにはいかないことから止むなく右大村に所有権を移転する手続をしようとしていた矢先に本件事故が起つたものである。
そして被告呉は、大村から右加害車を借り受けた大村博祥こと李博祥に同乗し、運転を替つて本件事故を起したものであるが、右李は同人の従事するローンズフジの業務のためこれを使用していた。
以上要するに、本件加害車は一年余という長期間に亘つて大村らの管理占有下にあり、彼らの業務に関して使用されてきていたのであるから、被告青森スバルは、右加害車の使用、運行に関して具体的に指揮、監督ないし指示、制御できる余地は全くなく、且つその立場にもなかつたものであつて、同車の運行は客観的外形的にも被告青森スバルのためにする運行ではないというべきである。
3 同4の各事実はいずれも知らない。
三 被告共栄火災の抗弁
原告主張の保険契約は、自家用自動車保険普通保険約款に基づくものであるが、その特約条項「他車運転危険担保特約」第六条四号に、被保険者が被つた損害又は傷害が「被保険者が他の自動車の使用について正当な権利を有する者の承諾を得ないで他の自動車を運転しているとき」に生じた事故による場合は免責される旨定められているところ、本件事故は、被告青森スバル主張のように、被告青森スバルの所有であつた本件加害車を工藤が詐取し、これを同人が金融業者である大村に借受金の担保として供していた間に被告呉が運転し惹起したものである。
しかして、本件は正当な権利を有する被告青森スバルの承諾を得ないで被保険者たる被告呉が他人の自動車を運転していたときに生じた事故にほかならないというべきであるから、被告共栄火災は右特約条項によつて免責される。
四 抗弁に対する認否
被告共栄火災主張の保険約款の特約条項にその主張のような定めがあること、本件事故が被告呉の本件加害車の運転によつて惹起されたことは認める。本件加害車が工藤に詐取され、同人から大村に貸金の担保に供されている間に本件事故が起きたことは知らない。免責される旨の主張は争う。
被告共栄火災主張の「正当な権利を有する者」とは、所有者のみに限らず、自賠法三条にいう運行供用者も含まれているものと解すべきところ、本件加害車の運行供用者は被告青森スバルと大村の双方であり、被告呉は右大村の承諾を得て運転していたものであるから、被告共栄火災は免責されない。
第三 証拠関係<省略>
理由
一本件事故の発生等
請求原因1、2の事実は、原告と被告呉、同共栄火災との間では争いがなく、原告と被告青森スバルとの関係では、<証拠>を総合しこれを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
二責任原因
1 被告呉について
請求原因3(一)の事実は当事者間に争いがなく、右事実によれば、被告呉は、民法七〇九条により本件事故によつて原告淑子に生じた後記損害を賠償すべき義務があるということができる。
2 被告共栄火災について
(一) 請求原因3(二)の事実自体は当事者間に争いがない。
(二) そこで、右被告の免責の抗弁について判断するに、自家用自動車保険普通保険約款の特約条項「他車運転危険担保特約」第六条四号に、事故が「被保険者が、他の自動車の使用について、正当な権利を有する者の承諾を得ないで、他の自動車を運転しているとき」に生じた場合は免責される旨定められていることは当事者間に争いがない。
しかるところ、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。
(1) 本件加害車は、本件事故当時、登録上所有者名義が訴外いすず販売金融会社、使用者が訴外渡部節子となつていたが、被告青森スバルが昭和五五年三月二〇日に右渡部に新車を販売した際に下取車として同月二八日頃同車の引渡を受けその所有権を取得した。
(2) 被告青森スバルは、右下取後本件加害車を同被告会社八戸営業所の中古車販売部門である中古車センターに移して売込み中、同年四月初頃、営業係員の訴外松橋武志が工藤モーターの名で車の販売業をしていると称する訴外工藤秋男に「車を売つてやる」と持ちかけられ、自動車検査証や自賠責保険証とともに引渡したところ、同人は同年六月頃代金未払のまま所在をくらまし、同車も行方不明となつて詐取されたことが判明した。
ただ本件加害車の右車検証等の証書は右所在不明以前に名義書換の場合に備えて返戻を受け、その手続未済のため被告青森スバルにおいて保管していた。
(3) 被告青森スバルは、他にも四台も被害を受け警察署にその被害を申告する一方独自に詐取された車の行方を捜していたところ、翌昭和五六年四月頃に本件加害車を発見し、金融業者のローンズハナブサこと大村が前記工藤から昭和五五年四月三〇日に二〇万円を貸した際、担保として本件加害者の引渡を受け使用していたことが判明した。
そして右大村は、工藤から利息六万七八〇〇円を含め同年五月から一〇月まで毎月二九日限り四万四五〇〇円宛右貸金の弁済を受ける約であつたが、一回分しか未だ支払を受けていなかつた。
そのため被告青森スバルの中古車課長石川一雄が発見した日の翌日大村に対し本件加害車が右被告会社の所有にかかるもので前認定の如く詐取されたものであることを説明し、その返還を求めたところ、元金二〇万円と利息六万七八〇〇円の支払を受けなければ応じられないといつて拒否された。
(4) 右石川は、被告青森スバルが要求された金員を支払つて本件加害車を引取つても採算が合わないことからその取戻しを断念し、放置すると前記渡部に税金がかかるため、大村に対して名義変更するか登録を抹消する必要のあることを説明し、車庫証明書、印鑑登録証明書等の提出もしくはナンバープレートの返還を要求したところ、同人は上司に相談してから後日連絡するといつてその要求にすぐには応ぜず、その後も連絡をとつたが返事がないうちに本件事故が起つた。
(5) なお前記のように本件加害車の車検証等証書は被告青森スバルが保管しており、大村はそれら証書がないのに本件加害車を担保にとつていたものであるが、石川が大村に対し右車検証等を持つていなければ車は使えないことを説明したところ、同人もそれを承知していて誰にも使わせないと確約した。
(6) ところが大村は、甥である金融業者ローンズフジの従業員の大村博祥こと季(ママ)博祥に担保として取得して以来本件加害車を日常使用させていたものであり、本件事故は右博祥が同業者で日頃交友していた被告呉を同乗させてローンズフジの借主方に集金に行つた帰りに、右被告から運転の交替を求められ、これに応じて交替し同被告が運転七〇ないし八〇キロメートルの速度で進行中脇見運転し、被害者らの発見が遅れて本件事故を起した。
以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実に照らすと、被告呉は、本件加害車を大村から借用していた季(ママ)博祥から又貸しされたものというべきところ、右又貸しについて大村から承諾を得た事実は本件全証拠によるも認められず、そもそも右大村は、本件加害車について「正当な権利を有する者」とは認められない。
すなわち、右認定の事実によれば、前記工藤は被告青森スバルの前記松橋を欺罔し本件加害車を詐取したものであつて、その権限がないのにこれを大村に借受金の担保として供したものであることが明らかであるところ、その担保が質権、譲渡担保のいずれであれ、大村は車検証等の備付けの証書がないにもかかわらず右工藤から本件加害車の引渡を受けているのであるから、大村において工藤に処分権限がないことを知らなかつたとしても、その点に過失があるといわねばならない。
したがつて、大村が本件加害車の上に質権ないし所有権を善意取得したものとは認め難い。
又その後の被告青森スバル側と大村との折衝によつても、大村が本件加害車の所有権を未だ取得したといえないことは多言を要しないであろう。
そうすると、本件においては被告共栄火災主張の免責条項に該当する事由が存することになるから、同被告の抗弁は理由がある。
したがつて、その余の点について判断するまでもなく、同被告には原告主張の保険金支払義務はないというべきであるから、原告の同被告に対する本訴請求は失当というほかはない。
3 被告青森スバルについて
被告青森スバルが本件加害車の所有権を有していたことは同被告と原告らの間で争いがないが、前認定のところによれば、同車は同被告において詐取された後大村に担保に供せられ、同人が季(ママ)博祥に使用させるなどして専らその運行を支配し、その利益を享受していたものであつて、被告青森スバルが同車を発見した以後においてもその返還を拒否されるなどして大村による同車の運行に影響を及ぼすことができなかなかつたものと認められるから、被告青森スバルは本件加害車の運行を支配しその利益を享受する立場にはなかつたということができる。
したがつて、自賠法三条に基づく原告の被告青森スバルに対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。
三損害
1 被告呉の賠償すべき損害額について、検討するに、原告淑子が昭和二〇年七月二二日生であり、本件事故により同原告がその主張の傷害及び後遺障害を受けたことは、<証拠>によれば、同原告が右傷害の治療のためその主張の期間その主張の病院に入通院したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
2 治療費、入院雑費、付添費、通院交通費について
治療費が四四万六一六〇円、入院雑費が七万六三〇〇円、付添費が七万二〇〇円、通院交通費が三二〇〇円となることは被告呉の認めて争わないところである。
3 休業損害について
<証拠>を合わせると、原告淑子は美容師の資格を有し昭和四四年一一月六日から八戸市根城四丁目にビューティーサロンひろつの名称で美容院を開設営業し、又昭和五五年一二月に原告ら肩書住所地の住居に併設して同売市店を開設し営業していたこと、原告淑子は主に右根城店でインターン二人と共に営業し、売市店は美容師一人を雇用してその営業に当らせていたこと、ところが同原告が本件事故で受傷し入院する事態となつたことから、根城店は本件事故のあつた翌昭和五六年七月九日から同月二〇日まで一二日間、美容師不在のため休業の止むなきに至つたこと、その後の同月二一日からは売市店の美容師を根城店の営業に従事させ同店を再開したが、売市店の方は直ぐには美容師を雇用することが困難なため、右美容師の移店に伴つて同月二一日から休業せざるを得ない状態になつたこと、以上の事実が認められ、原告國久本人の供述中、右認定と異なる売市店を同年七月八日から閉店した旨の供述部分は不自然で俄かに措信し難く他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実に照らすと、原告淑子は被告呉に対し、根城店が休業せざるを得なかつた一二日間と、売市店が休業せざるを得なかつた昭和五六年七月二一日から前認定の原告淑子が退院した日である同年一〇月二四日までの九六日間の休業損害につき損害賠償を請求でぎるというべきである。
しかるところ、<証拠>を合わせると、右両店における本件事故前の昭和五六年一月から六月までの六か月間(一八一日)の売上高は、別紙根城店、売市店各売上等一覧表のとおりであり、売市店の美容師の給料が一か月七万五〇〇〇円、根城店のインターンの給料一人七万円合計一四万円であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はなく、右給料に<証拠>に各記載の電気、ガス、水道等を加算した諸経費を右認定の売上高から控除すると各店の純益が別紙各売上等一覧表のとおりとなるが、前掲原告國久本人尋問の結果によれば、右各書証の諸経費等の記載は本訴訟提起後記載したもので領収書がないことによる記載漏れなどが少なからずあり不正確であること、原告淑子は赤字であるとしてこれまで所得税の確定申告をしたことがなかつたことが認められる。
結局原告淑子が美容店の休業によつて被つた損害は正確に算定することはできないが、右認定の諸事情や右甲号各証の記載に照らすと、前記期間における各店の純益はそれぞれ売上高の五〇パーセントを下らないものと推認される。
そうすると、根城店における前記期間の純益が二二六万二五〇〇円、売市店のそれが一九五万九八七五円となるから、休業損害は根城店分が一五万円(2,262,500円÷181日×12日=150,000円)、売市店分が一〇三万九四九一円(1,959,875円÷181日×96日=1,039,491円)となる。
次に、原告淑子は、退院の翌日たる昭和五六年一〇月二五日から症状固定の昭和五七年六月一七日までの二三六日間、従前の収入の三〇パーセントを失つたとしてその損害賠償を求めているので判断するに、原告國久本人尋問の結果によれば、売市店は美容師が根城店に移店後美容師を雇用せず、右退院時点においては既に閉店廃業していたことが認められるうえ、原告淑子が退院するまでの期間に美容師を雇用する時間的余裕がなかつたとは到底認め難いから、右退院時以降の右閉店廃業については本件事故と因果関係はないというべきであり、したがつて、その余の点について判断するまでもなく、原告淑子の売市店に関する減益による損害賠償の主張は失当たるを免れない。
根城店については、前記三1記載のとおり確定された事実に<証拠>を合わせると、前認定のとおり売市店から移店してきた美容師が昭和五六年七月二一日から根城店で稼働し、同年一二月二〇日ころまで同店で稼働して退職したこと、その間の根城店の売上高は同年八月が四一万五九〇〇円、同年九月が五三万一九〇〇円、同年一〇月が五七万二三〇〇円、同年一一月(但し、同月二五日まで)が五二万九六〇〇円で、季節的要因が窺われるもののかなりの売上減となつていること、原告淑子は右のとおり美容師退職のため同年一二月二〇日ころから稼働するようになつたが、翌昭和五七年六月一七日まで実日数八日通院しており、又請求原因4(二)(2)記載の後遺症が存したこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実に照らすと、原告淑子は、その主張の前記二三六日間に、根城店において、本件事故前の六か月間の純益の二〇パーセントを下らない収入を失つたものと推認するのが相当である。
そうすると、計算上その減益による損害額は五九万円となる(2,262,500円×181日×236日×0.2=590,000円)。
4 逸失利益について
原告淑子が本件事故のため請求原因4(二)(2)記載の後遺障害を有するに至つたことは先のとおり争いがなく、その障害の部位、内容、程度等からすると、同原告は、その症状の固定した昭和五七年六月一八日から二年間を通じその労働能力の五パーセントを喪失したものと認めるのを相当とする。
そして、根城店の年間純益を本件事故前六カ月間の純益に基づいて算出すると四五二万五〇〇〇円となるから、これに右労働能力喪失率を乗じ、ホフマン方式によつて中間利息を控除して右二年間の逸失利益の本件事故当時における現価を計算すると、四二万一〇五一円となる(4,525,000円×0.05×1.861(ホフマン係数)=421,051円)。
5 慰藉料について
前記三1記載のとおり確定された傷害の部位、程度、入通院期間、後遺障害の程度その他本件に顕れた諸般の事情を勘案すれば、本件事故によつて原告淑子が受けた精神的苦痛に対する慰藉料は、二八〇万円と認めるが相当である。
6 損害の填補について
原告淑子が自賠責保険金として三二九万円の支払を受け、これと被告呉から支払を受けた八三万円を加えて合計四一二万円の損害の填補を受けたことは原告淑子と被告呉との間で争いがない。
前記損害額から右金額を控除すると、一四七万八二〇二円となる。
7 弁護士費用について
原告淑子が原告訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を委任し、相当額の報酬の支払を約していることは弁論の全趣旨に照らし認めることができるところ、本件事案の性質、事件の経過、認容額に鑑みると、被告呉に対し賠償を求め得る弁護士費用は二〇万円と認めるのが相当である。
四以上の次第で、原告らの本訴請求のうち、原告淑子が被告呉に対し金一六七万八二〇二円及び内金一四七万八二〇二円に対する本件事故の日の翌日の昭和五六年七月九日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、同原告の同被告に対するその余の請求及び原告らの被告共栄火災、同青森スバルに対する請求は失当であるからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(佐々木寅男)
売市店売上等一覧表<省略>
根城店売上等一覧表<省略>